先日の記事「3C分析とは?競合や市場を知り、事業を成功に導く為に行うべき必須分析」でも解説したようにビジネスを進めるうえで、様々な分析が必要となる場面は多くあります。
これらの中でも外部環境の分析はその他の施策立案と異なり、直接的な売上や利益に繋がらない為、疎かにする企業も少なくはありません。
その結果、外部環境分析のスキルは身につかず、ビジネスフレームワークの穴埋め程度に終わってしまうケースもよくあるようです。
今回は外部環境分析の1つであると共に先日解説した3C分析の1つ目のCであるCustomer(市場や顧客)の分析に欠かせないPEST分析について解説していきます。
目次
PEST分析
PEST分析はフィリップ・コトラー(経営学者)が提唱しているビジネスにおけるフレームワークの1つです。
まず自社がおかれている環境を分析するには「内部環境」と「外部環境」といった大きく2つの環境の分析を必要とします。
このPEST分析はマクロ環境(世の中の流れ)をPolitics(政治的要因)、Economy(経済的要因)、Society(社会的要因)、Technology(技術的要因)の切り口で分析し、事業戦略やマーケティング上の機会と課題を見出すことを目的とします。
ブランディングやマーケティングは政治や経済、社会、テクノロジーといった世の中の動向や変化に影響を受けるのは当然のことです。
この様な世の中の動向を「マクロ環境」と呼びますが、このPEST分析の目的中長期的なマクロ環境を分析し、どのような変化がどのくらい自社のブランディングやマーケティングに影響を与えるか分析して、今後どう戦っていくかに活かす為の重要な事なのです。
分析が「穴埋め」作業になってしまう理由
では、重要だと認識しているにも関わらず、結局は穴埋め作業に終わってしまうのはどうしてでしょうか。
この穴埋め作業に陥ってしまうのには以下の様な大きく2つの原因があります。
・PEST分析やファイブフォース分析、3C分析など、とりあえずフレームワークの「箱」を埋めてはみたものの、そこから先の示唆を導き出せない状態に陥ってしまった
・PEST分析を使って情報収集し整理しようとしたものの「どこまで範囲の」情報を「どのレベルまで」収集すべきかわからず、際限なく情報収集をするはめになった
この様に「情報を収集」し「情報を整理」した後、肝心なその情報に対して「考え」「理解し」「示唆する」までに至らない為、この様な「穴埋め」で終わってしまいます。
ですが、その背景にあるロジックまでしっかりと理解し、繰り返しチャレンジする事で、他社とは一歩先を行く立派な「スキル」となります。
もしあなたが、すでに3C分析や今回のPEST分析の存在を知っているにも書かわらず冒頭のような「穴埋め」の状態に陥ってしまったのであれば、今回の記事を機にしっかり理解し、あなたのビジネスに活かしてもらえたら幸いです。
P:Politics(政治)
Politicsでは、政治や法律の面で外部的環境分析を行っていきます。ここでのポイントとしては、現在の法律や税制、政権などが自社のブランディングやマーケティングにどう影響しているかを見る事です。
ここでは「なぜ政治や法律などの面からの分析が必要になるかを検討する」という事が重要となります。
これまでにあった事例を挙げてみましょう。
例えば2009年に改正薬事法の規制が厳しくなったのを覚えていますでしょうか。この規制により一部医薬品のインターネットでの販売が禁止され、その後2013年の勝訴でインターネット上での医薬品の販売が許可されるまでインターネット上で医薬品を販売していた企業に大きなダメージを与えました。
また、近年では飲食業界において2015年の「機能性表示食品制度」が解禁され、規制緩和が行われた事により、これまで機能性表示をするために必要だったさまざまなフローが簡略化されて事前届出のみでの表示が可能になり、規制変更に早期対応した企業の売上は大幅に拡大しています。
これらの政治や法律における外部環境の変化にいち早く対応した企業にとってはビジネスのチャンスとなり、対応が遅れた企業にとっては脅威とまでなってしまうのが理解できると、いかに外部環境の分析が重要であるという事が理解できるのではないでしょうか。
これらの法律の他、「税制の変化」「政治の動向」「思想の潮流」「補助金や交付金の制度」など政治や法律面での外部環境がもたらすビジネスの影響は計り知れません。
E:Economy(経済)
次にEconomyでは経済面で外部環境の分析を行っていきます。この分析で日本国内または世界における「経済の成長率」や「株価」、「金利」、「賃金動向の変化」「物価の変化」「個人の消費行動」などを中心に分析を行い、ビジネスチャンスを見つけたり経済の変動により受けうる損害を最小限に抑える施策の検討を行ったりすることを目的とします。
PEST分析の要素の1つであるこの経済面での影響として「売上」や「投資」「コスト」が挙げられます。
あなたのビジネスの内容が何であれ、ビジネスは人材と原材料を仕入れることから始まります。まずは仕入れの面で「人材や原材料の需要と供給のバランス」という経済的要因が働くことが理解できると思います。
もしこのまま近年の様な労働力不足が続くのであれば人件費は高騰するでしょうし、為替の変動が激しければ、原材料の高騰にも繋がる可能性も出てきます。
また、あなたのビジネスのブランドが「価格競争」を武器としているのであれば、投資面やコスト面で影響が生じるでしょう。
更にはもしあなたが高級バッグブランドのマーケティング担当であれば、「物価の変化」や「個人の消費行動の変化」により売上自体に影響を与える場合もあります。
こうしてこのPEST分析の要素の1つである「経済的要因」は様々な連鎖を呼び起こしてしまう重要な事だと理解して頂けたら幸いです。
S:Society(社会)
Societyでは特に消費行動の変化やライフスタイル変化について分析していきます。経済面でも「消費行動の変化」について触れましたが、社会面からの分析では社会構造やライフスタイルそのものに着目する必要があります。
例えば近年での社会的影響の最もわかりやすいものとして「少子高齢化」ではないでしょうか。
この現象に伴い、ひと昔前までは考えてもみなかった「ターゲットそのものの減少」が影響してきます。若年層をターゲットとしてきたブランドは、若年層自体の分母が減る事により市場での競争が激しくなります。更に、以前の若年層とは物事の捉え方や考え方自体も異なり、差別化だけではうまく市場で優位に立てないのが現状です。
続いては「単身世帯の増加」も見逃せない社会的影響として挙げられます。これらには「独身世帯の増加」「離婚率の増加」「単身高齢者の増加」のような複数の時代背景が関わってきます。
この点からの影響でわかりやすいものと言えば飲食業界における「少容量化」や「小分け」の需要の増加が挙げられます。これまで単身世帯が少ない時には需要が少なかったものの、この様な社会的影響や変化に伴い生まれてきた現象です。
独身世帯の増加や離婚率の増加に伴い、女性の社会進出が大幅に増える事でネットスーパーの需要や料理の時短商品の普及も見逃せません。コンビニエンスストアが単身高齢者向けに始めた宅配サービスもこれらの社会的変化と捉える事ができます。
このように、社会全体や個人の消費行動やライフスタイル、問題点などを把握、分析することは、自社の事業の今後の方向性を決定する上でも大きな要素の1つとなります。
T:Technology(技術)
最後のTechnologyでは商品の生産技術、商品開発技術だけでなく、マーケティング技術の変化について分析していきます。
技術の発達により市場への影響は大小様々ですぐに影響を及ぼすものもあれば、次第に定着し、徐々に拡大していくものもあり、軽視する事はできません。
身近なもので例えるなら、スマートフォンが挙げられます。日本にi phoneが上陸した直後にはさほど影響がなかったかのように思われましたが、徐々に普及し始め、今では3大キャリア各社からi phoneをリリースしたり、その他のスマートフォンのリリース、アクセサリーなどの市場拡大から、格安スマホへの市場の派生など、社会に大きな変化をもたらしています。
また、自動車業界で言えば電気自動車の普及やその他安全運転機能、IoT化に伴い様々な電化製品のインターネット化といったものもひと昔前からは考えられなかった技術進歩も社会に大きな影響を及ぼしています。
更には私たちが大きく関わるマーケティングにおいても、GoogleやFacebookなどのプラットフォームにより以前より安価で広告を出稿できるだけにとどまらず、A/Bテストが容易にできるといった機能はこれまで資金力のある大企業の独占から、中小規模の企業でも同じフィールドで戦う事ができるようになりました。
このように、技術の発達においても決して無視できない要因の1つです。特に日本は世界的に見ても技術力が非常に高いため、よりその進化に敏感になることでビジネスチャンスを獲得し、損失を最小限に抑えることが可能になります。
最後に
これまでに挙げた4つの要因は自社の影響だけでは変えることができない難しい部分ではありますが、いかに重要な事だと理解して頂けたかと思います。
このPEST分析における大切なポイントは「情報収集と証拠収集」「PESTの各要因から社会的や個人的ニーズに変化と影響がないか見抜く」「PESTの各要因から自社にとってチャンス、脅威がないかを理解する」ことです。
自社のブランディング、マーケティングにおいて見逃せない環境分析。その中でもより詳しく細分化する事ができるこのPEST分析は大小規模問わず欠かせない分析です。
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