現代ではスマホ一台とインターネット回線さえあれば、情報の大半は簡単に手に入れることができます。
昔は当たり前だったマス広告も、現在では選択肢の1つとして活用する位置取りになり、ターゲットとする消費者の行動に応じてマーティング戦略を展開していかなければならない時代です。
今回は、時代とともに変化する購買行動モデルとその種類について解説します。
過去は、そして現代の消費者はどんな行動をとっているのかを把握していきましょう。
目次
購買行動とは?理解すべき理由
購買行動とは簡単に言えば「消費者が商品やサービス購入までに起こす段階的行動」を指します。
消費者の購買心理や行動を理解することで、企業側がフェーズ毎にどうアプローチすべきかを検討しやすくします。
また、フェーズごとの課題の表面化にも繋がりますので、現在展開しているマーケティング活動の内容の見直しや改善にも役立つ重要な分析の1つと言えるでしょう。
実際にモノを購入する時、あなた自身もいずれかの購買行動に近いアクションを起こしているはずです。
一旦客観視して消費者の目線で物事を捉え、各段階の行動で企業側からどんなアプローチがくるとより購買に近づくか考えてみることをおすすめします。
では、消費者の購買行動モデルを時代と共に把握していきましょう。
マスメディア時代(1900年代前半~)と消費者の購買行動モデル
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった媒体が主な情報の発信源となる時代であり、消費者もこれらから様々な情報を得ていた時代です。
マスメディア自体現在も健在ではありますが、全盛期と比較するとピークはすでに過ぎている状態です。
このマスメディア時代では主に以下の5つの購買行動モデルが提唱されています。
- AIDA(アイダ)
- AIDCA(アイドカ)
- AIDMA(アイドマ)
- AMTUL(アムツール)
- AIDCAS(アイドカス)
購買行動モデルAIDA(アイダ)とは
購買行動モデルAIDA(アイダ)は、アメリカの広告のパイオニアとも呼ばれている「セント・エルモ・ルイス」が1900年に提唱した最も古い購買行動モデルと言われています。
- Atention(認知)・広告によってサービスや商品の存在を知る
- Interest(興味や関心)・存在を知り、そのサービスや商品に興味を持つ
- Disire(欲求)・サービスや商品が欲しくなる
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
広告によってあるサービス(商品)を認知し、購入するまでの行動を4段階の心理状態に分けた理論です。
AIDAは現在の購買行動モデルのベースともなっており、後にセールスコピーでも多用され、「AIDAの法則」としても世界的に有名になりました。
ちなみにAIDAの提唱自体は1900年ですが、1925年にE・K・ストロングが自身の論文「SEORIES OF SELLING」の中でこのAIDAを用いて説明したことで知れ渡ったとも言われてます。
購買行動モデルAIDCA(アイドカ)とは
また、E・K・ストロングに、AIDAのA:アクションの前にConviction(確信)する段階があると説き、AIDCA(アイドカ)と修正しています。
- Atention(認知)・広告によってサービスや商品の存在を知る
- Interest(興味や関心)・存在を知り、そのサービスや商品に興味を持つ
- Disire(欲求)・サービスや商品が欲しくなる
- Conviction(確信)・サービスや商品を購入してもよいと確信する
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
購買行動モデルAIDMA(アイドマ)とは
購買行動モデルAIDMA(アイドマ)は、アメリカの販売・広告の実務書「Retail Advertising and Selling」の中で広告による宣伝に対する消費者の心理的プロセスとして発表したものです。
- Atention(認知)・広告によってサービスや商品の存在を知る
- Interest(興味や関心)・存在を知り、そのサービスや商品に興味を持つ
- Disire(欲求)・サービスや商品が欲しくなる
- Memory(記憶)・購入の動機としてサービスや商品を記憶する
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
AIDA、AIDCA、AIDMAが提唱された1900年代前半、アメリカは第二次産業革命が起こり、工業が急激に発達、映画の放映や自動車、ラジオが著しく普及し、大量生産、大量消費時代です。
この頃のアメリカでの主な媒体は新聞、雑誌、ラジオ。
電話の普及率は40%程度だったため、広告でサービスを認知し、興味を持ち、欲しくなってもすぐに注文や購入できない場合も多くありました。
その時代背景から、Desire(欲求)とAction(行動)のプロセスの間にMemory(記憶)するという購買行動が追加されました。
購買行動モデルAMTUL(アムツール)とは
購買行動モデルAMTUL(アムツール)は日本の経済評論家水口健次氏が1978年に提唱した購買行動モデルです。
これまでのAIDA、AIDCA、AIDMAといった比較的短期間における消費者の購買行動を示したのに対し、AMTULは長期的な消費者心理を示していることが特徴です。
- Aware(認知)・広告によりサービスや商品を認知する
- Memory(記憶)・サービスや商品のことを記憶する
- Try(試す)・まずは試しに購入してみる
- Usage(本格的な使用)・良いと思えば繰り返し購入する
- Loyalty(固定客化)・企業、サービスのファンになる
このAMTUL(アムツール)が提唱された1970年代の日本は戦後から高度経済成長、オイルショックを経た時代です。
社会情勢の変化に伴い、これまでの経済発展のためのサービスから「消費者のためのサービス」へと企業側の意識も変わっています。
また、白黒テレビからカラーテレビへと普及も移り変わり、広告の媒体としてテレビが本格的に加わります。
購買行動モデルAIDCAS(アイドカス)とは
AIDA、(アイダ)、AIDCA(アイドカ)から更に変化した短期型購買行動モデルAIDCAS(アイドカス)。
サービス購入や来店といった消費者の行動の後にSatisfaction(満足・評価)が加わります。
- Atention(認知)・広告によってサービスや商品の存在を知る
- Interest(興味や関心)・存在を知り、そのサービスや商品に興味を持つ
- Disire(欲求)・サービスや商品が欲しくなる
- Conviction(確信)・サービスや商品を購入してもよいと確信する
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
- Satisfaction(満足・評価)・購入後満足する、評価する
これまで消費者に購入、来店してもらうことを企業側のゴールとしていたことから、購入後に満足、評価して再度購入してもらい、固定客の獲得にマーケティング戦略を移行し始める傾向になります。
WEB時代(1990年代後半~)と消費者の購買行動モデル
インターネットの普及に伴い、これまで企業側からの一方的な情報発信から、消費者自ら情報を獲得する時代へと移り変わります。
WEB時代の初期はスマホやタブレットではなく、パソコンがメインディバイスでした。
当時の携帯電話はパケット通信料が高く、主に通話とメールの手段として利用していたため、パソコンを利用している消費者の方が情報獲得スピードが早い状況。
その他の方はこれまでと同じようにまだマスメディアからの情報獲得がメインです。
そして、インターネットの利用者数が増加する毎に購買行動モデルも少しずつ変化していきます。
WEB時代では主に以下の2つの購買行動モデルが提唱されています。
- AISAS(アイサス)
- AISCEAS(アイシーズ)
購買行動モデルAISAS(アイサス)とは
2000年に入り、インターネットが更に普及したことで、消費者のこれまでの購買行動に変化が生まれます。
そこで2004年に日本の電通が購買行動モデルAISAS(アイサス)を提唱しました。
- Atention(認知)・広告によってサービスや商品の存在を知る
- Interest(興味や関心)・存在を知り、そのサービスや商品に興味を持つ
- Serch(検索)・インターネットを利用し、サービスや商品について調べる
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
- Share(共有)・購入後サービスの感想や評価をWEB上の口コミやブログなどで共有する
この購買モデルで注目すべき点はSerch(検索)とShare(共有)という共にインターネットを利用して行う購買行動です。
興味を持ったサービスに対して、企業が発信する情報だけでなく同じ立場の消費者の情報も参考にする。
更にサービス購入後は自ら感想や評価をWEB上で行い、それを閲覧した他の消費者が認知するというサイクルが生まれる可能性も高くなるのがこの時代の特徴でもあります。
また、必ずしも良い感想・評価だけとは限りませんので、万が一悪い感想評価の場合も想定しなけばいけません。
購買行動モデルAISCEAS(アイシーズ)とは
2005年ごろにアンヴィコニュニケーションズの創始者である望野和美氏が購買行動モデルAISCEAS(アイシーズ)を提唱しました。
AISCEAS(アイシーズ)はAISAS(アイサス)に加え、Comparion(比較)、Examination(検討)が加わります。
- Atention(認知)・広告によってサービスや商品の存在を知る
- Interest(興味や関心)・存在を知り、そのサービスや商品に興味を持つ
- Serch(検索)・インターネットを利用し、サービスや商品について調べる
- Comparion(比較)・同じようなサービスと比較する
- Examination(検討)・検索、比較を踏まえて購入を検討する
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
- Share(共有)・購入後サービスの感想や評価をWEB上の口コミやブログなどで共有する
この頃の時代背景として、インターネットの普及により、年々利用者が増えるだけでなく、企業側もWEB上にも情報を提供する傾向が強くなってきました。
以前よりもWEB上に情報が増える、消費者が口コミ、レビューサイト、ブログなどで共有する情報も増えることで、他の消費者は検索の際に類似したサービスも見つけることができるサイクルが生まれます。
そのため、どちらのサービスの方が良いのかと比較をはじめ、更に自分にとってどちらのサービスを買うべきか検討する時間が必要となるのです。
企業同士においても、他社の情報を早く手に入れることができるようになったため、競争が激化します。
SNS時代(2010年~)と消費者の購買行動モデル
2008年、APPLEのiPhone3Gの日本上陸ごろから徐々にパソコンだけでなくスマートフォン、携帯電話でのインターネットの利用が急激に加速しました。
また、これまでの国内のSNSがmixiだけだった頃から大きく変わり、TwitterやFacebook、Instagramと現在でも代表されるSNSが盛んになり始めた時代です。
様々な情報を以前よりも簡単に、しかも早く手に入れることができるようになった消費者は、この時代背景に応じて購買行動も変化していきます。
SNS時代では主に以下の3つの購買行動モデルが提唱されています。
- VISAS(ヴィサス)
- SIPS(シップス)
- ULSSAS(ウルサス)
購買行動モデルVISAS(ヴィサス)とは
2010年、ITアナリスト大元隆志氏が購買行動モデルVISAS(ヴィサス)を提唱しました。
- Viral(口コミ)・SNSの口コミによってサービスや商品の存在を知る
- Influence(影響)・その口コミした人に影響を受ける
- Synpathy(共感)・サービスや商品の特徴や魅力に共感する
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
- Share(共有)・購入後サービスの感想や評価をWEB、ブログ、SNSなどで共有する
この購買行動モデルの大きな特徴は、これまで提唱してきたような認知のタイミングが他の消費者の口コミによるものだということです。
インターネットの普及、SNS利用者の増加によりサービスや商品を購入した後、情報を共有、参考にする機会が増加します。
もちろん企業側の広告によって認知することもありますが、情報の発信が企業側だけではなくなる時代が本格的に到来したとも言えるでしょう。
購買行動モデルSIPS(シップス)とは
2011年、電通コミュニケーションズの佐藤尚之氏が購買行動モデルSIPS(シップス)を提唱しました。
- Sympathize(共感)・発信者のコンテンツを見てサービスや商品を認知し、共感する
- Identify(確認)・サービスや商品の詳細や口コミなど得た情報を確認する
- Participate(参加)・発信者のコンテンツを評価する(企業の販促に参加する)
- Share&Spread(共有・拡散)・情報を共有、拡散する
先述したVISAS(ヴィサス)と比較すると、SIPS(シップス)の場合、ご覧の様に必ずしも購入するとは限らない点です。
また、影響を受ける発信者も必ずしもインフルエンサーというわけではなく、身近な一般ユーザーから認知や共感することも違いと言えるでしょう。
購買行動モデルULSSAS(ウルサス)とは
2015年、Hotto linkにより行動購買モデルULSSAS(ウルサス)が提唱されました。
- UGC(一般のユーザーが投稿したコンテンツ)・ユーザーコンコンツによりサービスや商品を認知する
- Like(いいね)・SNSの投稿に「いいね」する
- Search1(SNS検索)・SNSでサービスや商品について検索する
- Search2(Google、Yahoo!検索)・検索エンジンでサービスや商品について検索する
- Action(行動)・サービスや商品を購入する
- Spread(拡散)・購入したサービスや商品についての感想や評価をSNSで拡散する
行動購買モデルULSSAS(ウルサス)の特徴としてまず注目すべきは、消費者の認知のタイミングがUGCであることです。
少し前までは、企業がメディアにて展開するコンテンツ(広告含む)によって消費者がサービスや商品を認知することが多い状態でした。
インターネット、そしてSNSの利用者が増加するにつれ、一般ユーザーの投稿で認知し、いいねを押し、普段利用しているSNSでまずは検索。
そして検索エンジンを利用して検索し、サービスや商品の詳しい情報を得るという行動をとることが増えてきました。
この時代から徐々に、企業側のコンテンツよりもUGCの方が優先され始めます。
コンテンツマーケティング時代(2015年~)の購買行動モデル
SNSユーザーが増加するにつれ、サービスや商品が認知されるタイミング、認知される方法にも変化が見られます。
この時代前後から媒体毎に、消費者に有益な情報を提供する「コンテンツマーケティング」を本格的に展開する企業が増加します。
広告に対する慣れもあり、企業から発信する情報に対して反応が鈍くなりつつある現状のなかで、いかに消費者の「欲しい」情報を提供できるかが課題となった時代です。
また、すぐに購買に結びつけるのではなく、段階を踏んで徐々に購買意欲を高めていくのが目的です。
コンテンツマーケティング時代の購買行動モデルには大きく以下の2つがあります。
- DECAX(デキャックス)
- Dual AISAS(デュアルアイサス)
購買行動モデルDECAX(デキャックス)とは
2015年、電通デジタルホールディングスの内野敦之氏によって購買行動モデルDECAX(デキャックス)が提唱されました。
- Discovery(発見)・WEBサイトやメディアで消費者にとって有益なコンテンツを発見する
- Engage(関係)・発信者の有益な情報提供によってと消費者が発信者に興味を持つようになる
- Check(確認)・発信者の情報の信頼性やそのサービス、商品を確認する
- Action(購入)・サービスや商品を購入する
- eXperiance(体験と共有)・サービスや商品を購入、体験し、自身のSNSなどで共有する
セールス感満載の広告に免疫がついている消費者は以前のような広告では反応してくれず、あくまでも自身にとって有益であるコンテンツを求めるようになります。
注目すべきは購買行動の中で、サービスや商品の存在を知るのが3段階目という点です。
企業側はターゲットをより明確にし、すぐにセールスするのではなく、コンテンツを通じて消費者との関係を徐々に良くしていくことが必要になる時代です。
ここでコンテンツマーケティングやリードナーチャリングがより注力される時代の始まりとも言えるでしょう。
購買行動モデルDual AISAS(デュアルアイサス)とは
2015年アタラ合同会社が電通プロモーション・デザイン局と協力し、購買行動モデルDual AISAS(デュアルアイサス)を提唱しました。
以前に提唱された購買行動モデルAISAS(アイサス)との違いとして、前者や購買を目的としていたことに対し、Dual AISAS(デュアルアイサス)はコミュニケーションを図り、サービスや商品の情報を拡散するというものです。
- Activate(起動)・サービスや商品に興味を持つ
- Interest(興味)・サービスや商品に参加する意識が高まる
- Share(共有)・サービスや商品、ブランドの情報に共感し、WEB上で共有する
- Accept(受容)・第三の消費者が情報を受け取る
- Spread(拡散)・第三の消費者がその情報を拡散する
ご覧のように、他の購買行動と異なり、購入といったアクションがありません。
企業側は、購入に結びつかないからといって決して蔑ろにしてはいけない、理解すべき購買行動の1つです。
持続性時代(~現在)の購買行動モデル
現マーケティング担当者であれば、自社のマーケティングの検証の際、嫌でも実感できるほど、年々高度なマーケティングが求められる現在。
その時々の時代背景と共に消費者の購買行動も変化していきます。
「サブスクリプション」や「SaaS」などでも解るように、企業側は「いかにサービスや商品を売る」のではなく「いかに消費者をファン化し、長期にわたりサービスや商品を利用してもらうか」にシフトしており、重視すべきポイントとなっています。
行動購買モデル5Aとは
2017年、マーケティングの権威とも呼ばれるフィリップ・コトラーが「マーケティング4.0」で5A理論を提唱しました。
- Aware(認知)・消費者がサービスや商品の存在を認知する
- Appeal(訴求)・消費者にサービスや商品、ブランド、企業の魅力を訴求する
- Ask(調査)・消費者が気になっているサービスや商品を調査する
- Act(購買)・サービスや商品を購入する
- Advocate(推奨)・他の人にサービスや商品を推奨する
フィリップ・コトラー自身、このマーケティング4.0で「企業のゴールは奨励者を増やすことだ」と説いています。
インターネットの利用はもちろん、SNSを通じて消費者は様々な人と繋がることができ、またつながりを求めている傾向にあります。
企業側は消費者との繋がりを強めてファン化することで、自社の営業担当とは別のアプローチで他の消費者に魅力を伝えてくれることも現在では不可能ではありません。
消費者の購買行動を理解してマーケティング施策の改善
本記事では時代と共に変化している消費者の購買行動モデルを紹介してきましたが、参考になりましたか?
企業側である私たちは、自社のサービスや商品、ブランド、企業自体を消費者にどの様に認知してもらうか。
またどのフェーズでどの様なコンテンツを提供し、ファン化や購買に繋げることができるかを日々考え、検証しなければいけません。
中にはどれにも当てはまらない「突発的な行動」をする消費者もいるでしょう。
まずは基本となる消費者の購買行動を理解したうえで、現在の顧客がどの様にして購買までに至ったのかを把握し、次に繋げることが大切です。